安全大国と呼ばれた日本も、近年は空き巣や強盗といった犯罪に対する警戒心が高まり、それに伴って葬儀の際の玄関張り紙のあり方も激変しています。かつては町内会の回覧板や、玄関先の大きな忌中札で「誰がいつ、どこで葬儀を行うか」を誰にでも分かるように知らせるのが美徳とされてきました。しかし、現代ではそれが「この家は〇日の昼間、完全に無人になります」という犯罪者への招待状になりかねません。実際に、葬儀中を狙った窃盗事件は全国で相次いでおり、遺族の悲しみに追い打ちをかけるような卑劣な行為が社会問題となっています。これを受け、現代の葬儀における新常識として「具体的な不在時間の明記を避ける」というスタイルが定着しつつあります。例えば、玄関に出す張り紙には「忌中」という二文字だけを大きく掲げ、詳細なスケジュールは一切書かないという手法です。知りたい人には葬儀社の連絡先を伝え、そこで個別に対応してもらう形を取ります。また、あえて玄関の表には何も貼らず、門扉の内側や、インターホンを操作しようとした瞬間にだけ目に入るような位置に、名刺サイズの小さな案内カードを置くという家も増えています。これにより、通りがかりの不特定多数の目に触れるリスクを最小限に抑えつつ、訪ねてきた知人には確実に情報を伝えることが可能になります。さらに、防犯カメラやセンサーライトを導入している家では、張り紙の近くに「録画中」というステッカーを併せて貼ることで、犯罪抑止力を高める工夫もなされています。一方で、地域社会との繋がりが深い地域では、張り紙を一切出さないことが「薄情」と見なされることもあり、遺族は安全と体裁の板挟みになることもあります。このような場合は、親戚や近所の人に交代で留守番を頼む、あるいはセコムなどのホームセキュリティを一時的に強化するといった対策を講じた上で、伝統的な張り紙を出すという選択肢もあります。要は、古き良き伝統を盲信するのではなく、リスクを正しく評価し、大切な家と遺族を守るための「賢い告知」が求められているのです。玄関の張り紙は、もはや単なる情報の掲示板ではありません。それは、遺族の知恵と警戒心が反映された、家族を守るための盾としての役割も併せ持つようになっているのです。1枚の紙を貼るか貼らないか。その決断の裏には、現代社会を生き抜くための複雑な計算と、故人を安全に送り出したいという切実な願いが込められています。
防犯意識の高まりと玄関の葬儀張り紙を巡る新常識