ご自宅にご遺体を安置し、通夜までの間、あるいは葬儀後の中陰壇で、ろうそくの火を灯し続けることは、故人を供養する上で大切な行いです。しかし、その一方で、火を扱うことには常に火災の危険が伴います。悲しみの儀式が、痛ましい事故に繋がることのないよう、ろうそくを安全に取り扱うための注意点を、ここで改めて確認しておきましょう。まず、最も基本的なことは、ろうそくを安定した場所に置くことです。ぐらついた台の上や、人が頻繁に通る動線上は避け、しっかりとした燭台(ろうそく立て)に、ろうそくを根元までまっすぐに差し込みます。燭台の下には、不燃性のマットや金属製のお皿などを敷いておくと、万が一ろうそくが倒れたり、溶けた蝋が垂れたりした際にも安心です。次に、ろうそくの周囲に燃えやすいものを置かない、ということを徹底してください。特に注意が必要なのが、カーテンや座布団、お線香の箱、そして供花です。風でカーテンが煽られたり、花の葉が乾燥してろうそくの炎に触れたりして、火災に繋がるケースは後を絶ちません。ろうそくと周囲のものとの間には、十分な距離を保つようにしましょう。また、エアコンや扇風機の風が直接ろうそくの炎に当たらないように配慮することも重要です。風で炎が大きく揺れると、蝋が異常な速さで溶けて流れ落ちたり、最悪の場合、ろうそくが倒れてしまったりする原因となります。小さな子供やペットがいるご家庭では、祭壇の周りに柵を設けるなど、絶対に近づけないようにする工夫も必要です。近年では、ご遺族の負担軽減と安全性を考慮して、様々な工夫が凝らされた製品が登場しています。例えば、8時間や12時間といった長時間燃焼し続けるカップ入りのろうそくは、交換の手間が省け、炎が安定しているため比較的安全です。しかし、最もお勧めしたいのは、就寝時や家を長時間空ける際に「電気ろうそく(LEDろうそく)」に切り替えることです。最近のLEDろうそくは、本物の炎のように揺らぐ機能がついているものも多く、雰囲気も損ないません。火災のリスクを完全にゼロにできるという安心感は、何物にも代えがたいものです。故人を思う心は大切ですが、その心が悲劇を引き起こしては本末転倒です。伝統的な供養の形と、現代の安全技術を上手に組み合わせ、心穏やかに故人様をお見送りしましょう。