ご遺族から「納棺の儀に立ち会っていただけませんか」と声をかけられた場合、それは故人様と非常に近しい関係であった証であり、大変光栄なことです。しかし、多くの人にとって馴染みの薄い儀式であるため、どのような服装で、どのような心構えで臨めば良いのか、戸惑う方も少なくないでしょう。納棺の儀は、故人様との非常にプライベートなお別れの場です。その場の雰囲気を壊さず、ご遺族の心に寄り添うために、いくつかのポイントを押さえておくことが大切です。まず服装についてですが、通夜や告別式のように喪服を着用する必要は必ずしもありません。多くの場合、ご遺族も平服で立ち会われます。ただし、平服といっても普段着で良いわけではなく、「平服=略喪服」と考えるのが適切です。男性であれば、黒や紺、グレーなどのダークスーツに白いシャツ、地味な色のネクタイ。女性であれば、黒や紺などの地味な色のワンピースやアンサンブルなどが望ましいでしょう。派手な色やデザイン、肌の露出が多い服装、光るアクセサリーなどは避けるのがマナーです。もし、納棺の儀の後にそのまま通夜が執り行われる場合は、喪服で参列するのが一般的です。次に、儀式中の立ち居振る舞いです。納棺の儀は、納棺師と呼ばれる専門家が中心となって進められます。ご遺族でない場合は、基本的には静かにその様子を見守るのが良いでしょう。儀式の最中、納棺師やご遺族から「故人様のお体を拭いてあげてください」「お着物を整えるのを手伝ってください」などと声をかけられることがあります。もし、気持ち的に抵抗がなければ、ぜひ故人様への最後の奉仕としてお手伝いしましょう。しかし、死と向き合うことが精神的に辛いと感じる場合や、体調が優れない場合は、決して無理をする必要はありません。「申し訳ありません、見守らせていただきます」と丁重にお断りしても、失礼にはあたりません。自分の感情を大切にすることも、その場にいる上での重要な心構えです。納棺の儀は、ご遺族が故人様の死を実感し、受け入れていくための非常にデリケートな時間です。そのことを常に念頭に置き、出しゃばらず、かといって壁を作るでもなく、ただ静かに、その場の空気の一部としてご遺族に寄り添う。その姿勢こそが、何よりの弔意の表れとなるのです。