古くから日本の葬送文化の中心にあった納棺の儀ですが、その形は時代と共に少しずつ変化しています。伝統的な作法を重んじる一方で、故人様やご遺族の想いをより反映させた、新しい形のお別れが生まれているのです。最も大きな変化の一つが、死装束の多様化です。かつては、仏式であれば経帷子と呼ばれる白い着物を着せるのが一般的でした。これは、故人が仏の弟子となり、浄土への旅に出るための衣装という意味合いがあります。しかし近年では、この伝統的な死装束にこだわらず、故人様が生前最も愛用していた服を着せて送りたい、と希望するご遺族が増えています。例えば、いつも着ていたお気に入りのワンピース、仕事で情熱を注いだスーツ、趣味のゴルフウェアや登山服など。その人らしい服装で送り出すことで、ご遺族は故人のありし日の姿をより鮮明に思い起こすことができ、より温かい気持ちでお別れができます。また、納棺の儀の在り方そのものも変わりつつあります。従来は、納棺師とご遺族のみが立ち会う、非常にプライベートな儀式でした。しかし最近では、特に家族葬など小規模な葬儀において、親しい友人にも声をかけ、通夜の前に「お別れ会」のような形で納棺の儀を行うケースも見られます。棺の周りに集い、故人の思い出を語り合いながら、みんなで花や手紙を棺に手向け、蓋を閉じる。そうすることで、儀式的な堅苦しさがなくなり、よりパーソナルで心温まるお別れの時間を共有することができます。さらに、湯灌の儀式にアロマオイルを取り入れたり、故人が好きだった音楽を静かに流したりと、五感に訴えかける演出を加えるサービスも登場しています。これらの変化は、葬儀が画一的な儀式から、故人一人ひとりの人生を讃え、残された人々の心を癒やすための、より個別化された「グリーフケア」の場へと進化していることの表れと言えるでしょう。死装束の形や儀式の進め方がどれだけ変わろうとも、その根底にある「故人を敬い、安らかな旅立ちを願う」というご遺族の想いは、決して変わることはありません。むしろ、形の選択肢が増えたことで、その想いをより深く、より豊かに表現できる時代になったと言えるのかもしれません。