葬儀の祭壇に欠かせないろうそく。その変遷を辿ることは、日本の葬送文化の変化を映し出す鏡のようでもあります。かつて、日本のろうそくと言えば、ハゼの実などから採れる蝋を原料とした「和ろうそく」が主流でした。和ろうそくは、芯が和紙と灯心草からできており、太くて中が空洞になっているため、空気が送り込まれて力強く、そして少し揺らめきのある独特の炎を生み出します。その荘厳な光は、まさに神聖な儀式の場にふさわしいものでした。しかし、和ろうそくは職人の手作業で作られるため高価であり、燃焼時間も比較的短いという特徴がありました。明治以降、西洋から石油を原料とするパラフィンワックスを使った「洋ろうそく」が伝わると、その安価さと安定した品質から、瞬く間に普及していきました。私たちが日常的に目にするろうそくのほとんどは、この洋ろうそくです。葬儀の場においても、この細長い洋ろうそくが長らくスタンダードとして使われてきました。しかし、社会構造が変化し、葬儀の形が多様化する中で、ろうそくにも新たなニーズが生まれます。核家族化が進み、ご遺族だけで「寝ずの番」を行うことが増えると、ろうそくを頻繁に交換する負担が問題視されるようになりました。また、斎場や自宅での火災リスクへの意識も高まりました。こうした背景から登場したのが、ガラスやアルミのカップに入った「長時間燃焼ろうそく」です。8時間、12時間、中には24時間燃え続けるものもあり、ご遺族の負担を劇的に軽減しました。溶けた蝋がカップの中に溜まるため、倒れにくく安全性も向上しています。そして現代、その進化はさらに進み、「LEDろうそく(電気ろうそく)」が広く使われるようになりました。火を使わないため火災のリスクは完全にゼロであり、電池式なのでコンセントの場所も選びません。最近の製品は、本物の炎のように光が揺らめく機能も搭載されており、見た目にも遜色ありません。就寝時や留守中はLEDろうそくを使い、人がいる時だけ本物のろうそくを灯す、といった使い分けが一般的になっています。和ろうそくから洋ろうそくへ、そして長時間ろうそく、LEDろうそくへ。その進化の歴史は、故人を敬う心はそのままに、残された人々の負担を減らし、安全性を追求してきた、日本人の合理性と優しさの歴史そのものと言えるでしょう。
葬儀のろうそくと時代の移り変わり